ボツリヌス菌の死滅条件 ボツリヌス菌食中毒の原因と予防
ボツリヌス菌の死滅条件 ボツリヌス菌食中毒の原因と予防
ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、低酸素条件下で危険な毒素(ボツリヌス毒素)を産生する細菌で、ボツリヌス毒素は神経機能をブロックし、呼吸および筋肉の麻痺を引き起こす非常に強い毒素です。
また、ボツリヌス菌の芽胞は、缶詰・ビン詰・真空包装食品などの嫌気条件となる食品で発育します。

今回は、ボツリヌス菌の死滅および育成条件とボツリヌス菌による食中毒について解説いたします。

ボツリヌス菌

出典:東京都福祉保健局

ボツリヌス菌食中毒の特徴

一般名:ボツリヌス菌
菌種名:Clostridium botulinum
染色性:グラム陽性
酸素要求性:偏性嫌気性
形 状:桿菌
芽胞形成:形成する

ボツリヌス菌食中毒は、ボツリヌス菌が産生するボツリヌス神経毒素 (botulinum neurotoxin)によって起こる全身の神経麻痺を生じる神経中毒疾患です。

毒素は腸管から吸収され、コリン作動性末梢神経に作用し、神経伝達物質であるアセチルコリンの遊離を阻害することにより筋肉の麻痺を引き起こします。

ボツリヌス菌は、芽胞を形成する偏性嫌気性グラム陽性桿菌であり、熱耐性が非常に強いため通常の加熱調理で死滅させることはできません。

この毒素は、現在知られている自然界の毒素の中では最も毒性が強いといわれ、抗原性の違いによってA~G型に分類されています。
また、ヒトのボツリヌス菌食中毒は、主としてA、B及びE型、まれにF型の毒素産生菌で起こります。

(国立感染症研究所.2008a,2008b)

ボツリヌス菌の死滅条件

Ⅰ群 A,B,F型 たん白分解性
\(D_{121.1} = 0.21 min\)(12D:2.52分)
\(Z = 11 ^\circ C\)

Ⅱ群 B,E,F型 たん白非分解性
\(D_{80} = 1.25 min\)(6D:7.5分 , 7D:8.75分)
\(Z = 7 ^\circ C\)

(anses)

ボツリヌス菌の芽胞のうち、第Ⅰ群菌は耐熱性が高く最も強い加熱条件を必要とし、殺菌レベルは12D(\( 10^{-12}= \) 1兆分の1)まで減らせれば安全とされています。

レトルト殺菌の条件を設定する指標として、F 値が使われます。
F 値は、昇温から降温まで全ての加熱工程における殺菌効果を121℃での殺菌効果に換算した値で、厚生労働省のレトルト殺菌食品の規格基準では、食品の中心温度が121℃で4分間(実際は加熱工程を積算した時間)加熱、またはこれと同等以上の効果を有する方法で殺菌する事(F値=4)を定めています。
※phが4.6を超え、かつ水分活性が0.94を超える食品をレトルト殺菌する場合
この殺菌条件は、特に缶詰や真空パックなどの嫌気性状態で繁殖し、人への致死率が高い、ボツリヌス菌の耐熱性芽胞を死滅させることができる条件です。

 

\(F=t_{r}10^{\left( T-121\right)/Z}\)  ・・・T℃でtr分間加熱した時のF値

※D値は、菌株量、pH、脂肪量、水分活性その他の要素で異なります
※D値は生菌数を1/10に減らすために必要な時間です
※Z値は加熱時間D値を1/10 する為に必要な温度です
※6D:6D reduction、7D:7D reduction、12D:12D reduction

ボツリヌス菌の発育条件

発育条件 発育至適条件
温度域 pH域 水分活性 温度域 pH域 水分活性
ボツリヌス菌Ⅰ群 A,B,F型 たん白分解性
10~48℃ 4.0~9.6 0.94< 37~40℃ 6.0~7.0 0.98
ボツリヌス菌Ⅱ群 B,E,F型 たん白非分解性 3.3~45℃ 5.0~9.6 0.97< 30℃ 6.0~7.0 0.99

(農林水産省)

ボツリヌス菌の芽胞は、低酸素状態に置かれると発芽・増殖が起こり、毒素が産生されます。(国立感染症研究所 LASR.2008)

※Ⅲ群/毒素型C、DおよびⅣ群/毒素型Gは食中毒事例が少ないため省略します。
※pH:1~14まであり、pH7が中性、7未満が酸性、7を超えるとアルカリ性となります。
※水分活性:食品の水分は%で表さないで、食品中で微生物が生育するために利用できる水分割合を示す水分活性Aw(Water activity)として表示されます。

ボツリヌス菌食中毒の潜伏期間

ボツリヌス食中毒の潜伏期間は4時間~8日間(通常は12~36時間)となります。

(WHO.2018)

ボツリヌス菌食中毒の汚染経路

ボツリヌス菌の芽胞は、土壌などに広く分布されているため、果物・野菜・肉・魚などとともに食品に混入することがありますが、熱耐性が強い芽胞のため長時間の加熱調理でも死滅させることができません。

この芽胞は、無酸素になると発芽し増殖する偏性嫌気性であるため、真空パック詰食品や缶詰、瓶詰め、発酵食品内などの低酸素環境で芽胞が発芽・増殖し、ボツリヌス毒素が作られます。

そのボツリヌス毒素を食品とともに摂取すると、毒素が腸管で吸収され、ボツリヌス食中毒が発症します

ボツリヌス菌食中毒の発症菌数

発症に必要なのは菌量ではなく毒素量となります。

少なくとも30ngの毒素を摂取すると発症及び致死との研究著書があります。(Peck MW.2006)

別の報告では、ヒトにおけるA型毒素の致死量は、0.1~1.0μgと推定されています。(ICMSF.1996)

ボツリヌス菌食中毒の主な症状

初期症状として、悪心・嘔吐及び下痢などの消化器症状があります。

次に、ボツリヌス菌の産生する毒素による眩暈・頭痛を伴う視力低下・かすみ目・複視(眼調節麻痺)・対光反射の遅延や欠如などの視覚異常、口渇・構音障害(発語障害)・嚥下障害などの咽喉部の麻痺が認められます。

さらに病状が進行すると、腹部膨満・便秘・尿閉・著しい脱力感・四肢の麻痺がみられ、次第に呼吸困難に陥って死に至ることがあります。

日本での致死率は、抗毒素療法が導入された1962年以降、約30%から約4%にまで低下しています。

ボツリヌス菌食中毒の予防

ボツリヌス菌の芽胞は土壌などに広く分布していることから、食品原材料の汚染を防止することは困難と考えられています。
ボツリヌス食中毒の予防には、食品中での発芽・増殖を抑制することが重要です。

したがって、ボツリヌス菌食中毒の予防には以下が有効とされます

ボツリヌス菌食中毒の予防

  1. 野菜や果物等の原材料は、十分に洗浄し冷蔵又は冷凍下で保存する
  2. 121℃で4分又は100℃で360分以上の加熱により芽胞を完全に殺菌する
  3. 喫食前に80℃で20分又は100℃で数分の加熱を行い毒素を不活化する
  4. 異常膨張又は異臭がある缶詰・瓶詰及び真空パック食品などは喫食しない

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(参考文献)

NIID 国立感染症研究所 ボツリヌス菌感染症とは
IDSC 国立感染症研究所 感染症情報センター LASR-(Vol.29 p.35-36:2008.02)ボツリヌス症
MAFF 農林水産省 リスクプロファイルシート ボツリヌス菌
FSC 食品安全委員会 ファクトシート ボツリヌス菌食中毒
東京都福祉保健局 ボツリヌス菌
MHLW 厚生労働省
JFHA 公益社団法人日本食品衛生協会
JFIA 一般財団法人食品産業センター 危害要因管理

World Health Organization(WHO)
Food and Drug Administration(FDA-United States)
European Food Safety Authority(EFSA-European Union)
Ministry for Primary Industries(MPI-New Zealand)
Data sheet on foodborne biological hazards(anses-France)
U.S. DEPARTMENT OF AGRICULTURE(USDA-United States)
Centers for Disease Control and Prevention(CDC-United States)
European Centre for Disease Prevention and Control(ECDC-European Union)
National Center for Biotechnology Information(NCBI-U.S. National Library of Medicine)
The International Commission on Microbiological Specifications for Foods (ICMSF-the Commission)
Public Health England(PHE-England)

Lemgo D- and z-value Database for Food(OWL University of Applied Sciences and Arts)
World Health Organization Fact sheets Botulism(WHO.2018)
Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food:Draft Guidance for Industry(FDA.2016)
European Food Safety Authority(EFSA Search.botulism)
Clostridium botulinum - Microbial pathogen data sheet(MPI.2017)
Risk profile: Clostridium botulinum in honey(NZFS scientific services.2006)
Risk profile: Clostridium botulinum in ready-to-eat smoked fish and shellfish in sealed packaging(MPI Technical Paper No: 2012/27)
Data sheet on foodborne biological hazards :Clostridium botulinum, and neurotoxigenic Clostridia(anses.2010)
USDA Search.Clostridium botulinum(USDA)
Centers for Disease Control and Prevention.Botulism(CDC-United States)
The Bacterial Diversity Metadatabase:Clostridium botulinum CCUG 41389(BacDive)

 

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