サルモネラの死滅条件 サルモネラ食中毒の原因と予防
サルモネラの死滅条件 サルモネラ食中毒の原因と予防
サルモネラ属菌(Salmonella enterica)は、腸内細菌科に属する通性嫌気性グラム陰性桿菌であり、菌体の周囲に周毛性鞭毛を持つ細胞内寄生菌です。

サルモネラ属菌は自然界に広く生息し、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類から分離される他、上記動物からの汚染の結果として環境中とそこに生息する各種の生物にも見出されます。

本属菌は2菌種6亜種に分類されているが、ヒトから分離される同属菌のほとんどはSalmonella enterica subspecies entericaになります。

サルモネラ属菌は、菌体(O)抗原と鞭毛(H)抗原により2500種類以上の血清型に分類されますが、この中には感染症法で三類感染症に規定されているチフス性疾患を引き起こすチフス菌(S. Typhi)やパラチフス菌(S. Paratyphi A)も含まれています。

今回は、食中毒の原因となるサルモネラ血清型Salmonella enterica subsp. enterica serovar Enteritidis(通称、Salmonella Enteritidis)を主に解説いたします。

サルモネラ

出典:国立感染症研究所

サルモネラ食中毒の特徴

一般名:サルモネラ
菌種名:Salmonella enterica
染色性:グラム陰性
酸素要求性:通性嫌気性
形 状:桿菌
芽胞形成:形成しない

サルモネラ属菌は亜種及び2500種類以上の血清型に分類され、恒温動物、変温動物を問わず様々な動物を宿主としている人獣共通感染症の代表的な原因菌です。

サルモネラ属菌は、乾燥に強く環境中での生存率が高いため、感染動物の体内のみならずその排泄物を介して広く自然環境を汚染し、感染経路は複雑で多岐となります。

なお、最も多いS. Enteritidis による食中毒は、主として鶏卵を介して生じています。

サルモネラの死滅条件

Salmonella spp.(サルモネラ属種複数菌種)

Poultry
\(D_{60} = 9.3 min\)(6D:55.8分 , 7D:65.1分)
\(D_{65} = 1.8 min\)(6D:10.8分 , 7D:12.6分)
\(D_{70} = 0.4 min\)(6D:2.4分 , 7D:2.8分)
\(Z = 7 ^\circ C\)

Beef/Pork
\(D_{60} = 8.6 min\)(6D:51.6分 , 7D:60.2分)
\(D_{65} = 1.5 min\)(6D:9.0分 , 7D:10.5分)
\(D_{70} = 0.3 min\)(6D:1.8分 , 7D:2.1分)
\(Z = 7 ^\circ C\)

All Meat
\(D_{60} = 12.2 min\)(6D:73.2分 , 7D:85.4分)
\(D_{65} = 2.1 min\)(6D:12.6分 , 7D:14.7分)
\(D_{70} = 0.4 min\)(6D:2.4分 , 7D:2.8分)
\(Z = 6 ^\circ C\)

(MPI)

※D値は、菌株量、pH、脂肪量、水分活性その他の要素で異なります
※D値は生菌数を1/10に減らすために必要な時間です
※Z値は加熱時間D値を1/10 する為に必要な温度です
※6D:6D reduction、7D:7D reduction

サルモネラの発育条件

発育条件 発育至適条件
温度域 pH域 水分活性 温度域 pH域 水分活性
サルモネラ 5.2~46.2℃ 3.7~9.5 0.94< 35~43℃ 7~7.5 0.99

発育条件(FDA)、発育至適条件(農林水産省)

※pH:1~14まであり、pH7が中性、7未満が酸性、7を超えるとアルカリ性となります。
※水分活性:食品の水分は%で表さないで、食品中で微生物が生育するために利用できる水分割合を示す水分活性Aw(Water activity)として表示されます。

サルモネラ食中毒の潜伏期間

サルモネラの潜伏期間は一般的に8~48時間ですが摂取菌数により異なります。
早いもので5時間、遅いもので72時、小児のS . Enteritidis感染症では3~4日に及ぶこともあります。

サルモネラ食中毒の汚染経路

サルモネラは動物の腸管内に生息するため、食肉(特に鶏肉)や鶏卵のほか、魚介類、堆肥を介して汚染された野菜、調理器具による交差汚染などで汚染された食品を摂食することにより食中毒症状を発症します。

卵およびマヨネーズ、洋生菓子、卵焼き等の鶏卵を原材料とした食品
食肉調理品(特に鶏肉)、うなぎやスッポン等

また、 ハエ等の昆虫やネズミ・ペット動物を介して食品を汚染する場合もあります。

サルモネラ食中毒の発症菌数

一般的なサルモネラ属菌の推定発症菌量は\(10^5~10^6\)CFU/gといわれていますが、極めて少量(\(10^1~10^2\)CFU/g)でも発症する場合があります(Salmonella Enteritidisなど)

※CFU/g:CFU(Colony Forming Unit)は菌量の単位で、1g中の菌の個数を表します。

サルモネラ食中毒の主な症状

サルモネラ食中毒の主な症状は、下痢、腹痛、悪寒、発熱、嘔吐など多岐にわたりますが、最も多いのは急性胃腸炎です。
また、小児では意識障害・痙攣・菌血症、高齢者では急性脱水症・菌血症など重症化する場合もあります。

(国立感染症研究所)

サルモネラ食中毒の予防

サルモネラは、通常の加熱調理条件(中心温度75℃1分以上)で死滅するため、適切な加熱調理を行うことで予防できます。
生卵を使用する場合は、殻などの傷を確認し新鮮なものを使用しましょう。

サルモネラ食中毒の予防には以下が有効とされます

サルモネラ食中毒の予防

  1. 食肉や卵などを取り扱った手指や調理器具はその都度必ず洗浄消毒する
  2. 肉や卵は冷蔵庫で保存し、調理の際は食品の中心部まで十分に加熱する
  3. 割卵後は直ちに調理する。また、卵の割り置きは絶対しない
  4. ネズミ、ゴキブリ、ハエなどの駆除を行う

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(参考文献)

NIID 国立感染症研究所 サルモネラ感染症とは
IDSC 国立感染症研究所 感染症情報センター LASR
MAFF 農林水産省 リスクプロファイルシート サルモネラ
FSC 食品安全委員会 ファクトシート サルモネラ食中毒
東京都福祉保健局 サルモネラ
MHLW 厚生労働省
JFHA 公益社団法人日本食品衛生協会
JFIA 一般財団法人食品産業センター 危害要因管理

World Health Organization(WHO)
Food and Drug Administration(FDA-United States)
European Food Safety Authority(EFSA-European Union)
Ministry for Primary Industries(MPI-New Zealand)
Data sheet on foodborne biological hazards(anses-France)
U.S. DEPARTMENT OF AGRICULTURE(USDA-United States)
Centers for Disease Control and Prevention(CDC-United States)
European Centre for Disease Prevention and Control(ECDC-European Union)
National Center for Biotechnology Information(NCBI-U.S. National Library of Medicine)
The International Commission on Microbiological Specifications for Foods (ICMSF-the Commission)
Public Health England(PHE-England)

Lemgo D- and z-value Database for Food(OWL University of Applied Sciences and Arts)
World Health Organization Fact sheets Salmonella(WHO.2018)
Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food:Draft Guidance for Industry(FDA.2016)
European Food Safety Authority(EFSA Search.Salmonella)
Risk profile (update): Salmonella (non-typhoidal) in and on eggs(MPI Technical Paper No: 2016/57)
Risk profile - Salmonella (non typhoidal) in cereal grains(NZFS scientific services.2010)
Salmonella typhi science research(NZFS scientific services.2018)
Data sheet on foodborne biological hazards : Salmonella spp.(anses.2011)
USDA Search.Salmonella(USDA)
Centers for Disease Control and Prevention.Salmonella(CDC-United States)
The Bacterial Diversity Metadatabase:Salmonella 1224.72(BacDive)

 

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