汚染された食肉(特に豚肉)や飲料水、動物の糞などによる汚染が感染源となり食中毒を引き起こします。
今回は、エルシニア・エンテロコリチカの死滅および育成条件とエルシニア・エンテロコリチカによる食中毒について解説いたします。
目 次
エルシニア・エンテロコリチカ食中毒の特徴
菌種名:Yersinia enterocolitica
染色性:グラム陰性
酸素要求性:通性嫌気性
形 状:桿菌
芽胞形成:形成しない
Yersinia属菌はグラム陰性の桿菌で腸内細菌科に属しています。冷蔵庫内温度である4℃でも発育できることが、サルモネラや大腸菌など他の腸内細菌科に属している菌と異なります。
現在、Yersinia属には11菌種が分類されていますが、ヒトに病原性を示すのは、Yersinia enterocolitica 、Yersinia pseudotuberculosis および Yersinia pestis で、Y. enterocolitica は生物型と血清型の分類から特定の組み合わせに限られています。
自然界における感染サイクルは、保菌動物の糞便とともに排出された菌が感染源となり、汚染された飼料を感受性動物が摂取した場合に感染・発症を自然に繰り返します。ヒトにおける感染様式も動物と同様であり、保菌動物から直接、あるいは飲食物を介して経口的に感染します。
動物の保菌実態では、豚、犬、猫、ネズミなどがあり、豚肉の摂食からの感染が多いと考えられています。
エルシニア・エンテロコリチカの死滅条件
PORK
\(D_{55} = 2.0 min\)(6D:12.0分 , 7D:14.0分)
\(D_{60} = 0.5 min\)(6D:3.0分 , 7D:3.5分)
\(D_{65} = 2.0 sec\)(6D:12.0秒 , 7D:14.0秒)
(NZFSA.2010)
Whole Milk 1
\(D_{57.2} = 14.7 min\)(6D:88.2分 , 7D:102.9分)
\(D_{62.8} = 0.96 min\)(6D:5.64分 , 7D:6.72分)
\(D_{68.3} = 0.09 min\)(6D:0.54分 , 7D:0.63分)
\(Z = 5.11 ^\circ C\)
Whole Milk 2
\(D_{57.2} = 6.5 min\)(6D:39.0分 , 7D:45.5分)
\(D_{62.8} = 0.31 min\)(6D:1.86分 , 7D:2.17分)
\(Z = 5.78 ^\circ C\)
Whole Milk 3
\(D_{57.2} = 4.6 min\)(6D:27.6分 , 7D:32.2分)
\(D_{62.8} = 0.24 min\)(6D:1.44分 , 7D:1.68分)
\(Z = 5.22 ^\circ C\)
※48株の中で最も耐熱性が高かった3株のデータです
※チューブ方式(熱媒体は、中サイズの試験管に入れ、水または油浴で加熱し、冷水または氷で冷却。測定温度に達するまで、わずかな遅延があります)
(OWL-Lovett J.,Bradshaw J.G. and Peeler J.T. 1982)
※D値は、菌株量、pH、脂肪量、水分活性その他の要素で異なります※D値は生菌数を1/10に減らすために必要な時間です
※Z値は加熱時間D値を1/10 する為に必要な温度です
※6D:6D reduction、7D:7D reduction
エルシニア・エンテロコリチカの発育条件
発育条件 | 発育至適条件 | |||||
温度域 | pH域 | 水分活性 | 温度域 | pH域 | 水分活性 | |
エルシニア・エンテロコリチカ | -1.3~42℃ | 4.2~10.0 | 0.945 | 29℃ | 7.2~7.4 | 0.99 |
発育条件(NZFSA.2010)、発育至適条件(anses.2012)
5%の食塩存在下でも増殖できますが、7%では増殖しません。
通常の加熱調理条件(中心温度75℃1分以上)で死滅します。
※pH:1~14まであり、pH7が中性、7未満が酸性、7を超えるとアルカリ性となります。
※水分活性:食品の水分は%で表さないで、食品中で微生物が生育するために利用できる水分割合を示す水分活性Aw(Water activity)として表示されます。
エルシニア・エンテロコリチカ食中毒の潜伏期間
潜伏期間は0.5~6日間となります。
エルシニア・エンテロコリチカ食中毒の汚染経路
エルシニア・エンテロコリチカは、家畜(特に豚)の腸管内に存在し、と畜場での解体時に汚染されます。
加熱が不十分な汚染豚肉や調理器具等を介した交差汚染が主な食中毒の原因となりますが、野生動物の糞便などで汚染された沢水や井戸水からの感染と思われる事例も報告されています。
エルシニア・エンテロコリチカによる食中毒の原因食品には以下があげられます。
fa-warning食肉(特に豚肉)加工品、、豆腐、もやし、野菜サラダなど
fa-warning生乳、乳製品(粉ミルク、加工乳等)チョコレートなど
エルシニア・エンテロコリチカ食中毒の発症菌数
推定発症菌量は\(10^4~10^6\)CFU/gとなります。
(FDA.2012)
※CFU/g:CFU(Colony Forming Unit)は菌量の単位で、1g中の菌の個数を表します。
エルシニア・エンテロコリチカ食中毒の主な症状
0.5~6日間の潜伏期間を経て、発熱、下痢、腹痛などを主症状とする胃腸炎や、頭痛、咳、咽頭痛などの感冒様症状が伴うことも多くあります。
乳幼児は感受性が高く下痢が主な症状であり、年齢が高くなるにつれて腸間膜リンパ節炎などの症状を示すことがあります。
なお、感受性は年長児から青年期へ年齢が高くなるにつれて低下します。
エルシニア・エンテロコリチカ食中毒の予防
エルシニア・エンテロコリチカは4℃以下の低温でも増殖可能なため、冷蔵庫で保存する場合でも長期間保存せず、長く保存する場合は冷凍保存します。
交差汚染を避けるために、調理器具や手指の洗浄殺菌を徹底すると共に、加熱を十分に行いましょう(通常の加熱調理条件、中心温度75℃で1分以上で死滅します)。
エルシニア・エンテロコリチカ食中毒の予防には以下が有効とされます
エルシニア・エンテロコリチカ食中毒の予防
- 冷蔵保存を過信せず、長期間保存しない
- 生肉に接触した手指や調理器具が調理済み食品に触れないようにする
- 器具や手指の洗浄殺菌を十分に行うなどの衛生管理を徹底する
- 加熱調理は中心部まで十分に過熱する
topics
連続式ボイルクール/殺菌洗浄
「ボイル+冷却」「洗浄+殺菌」「加熱+殺菌+すすぎ」等を連続処理する安全で効率の良い装置があります。
加熱温度・時間、冷却温度・時間、殺菌時間、洗浄時間など希望通りの仕様にて格安で製作可能です。
根菜、果実、農産物などの加熱冷却の他、調理加工品、ゼリー等の調理及び加熱殺菌に最適。また、「セリウスソフト水生成装置」を利用した連続式殺菌洗浄装置としても実績があります。
(参考文献)
NIID 国立感染症研究所 エルシニア感染症IDSC 国立感染症研究所 感染症情報センター LASR
MAFF 農林水産省 リスクプロファイルシートエルシニア・エンテロコリチカ
FSC 食品安全委員会 ファクトシート エルシニア症(Yersiniosis)
東京都福祉保健局 エルシニア・エンテロコリチカ
MHLW 厚生労働省
JFHA 公益社団法人日本食品衛生協会
JFIA 一般財団法人食品産業センター 危害要因管理
World Health Organization(WHO)
Food and Drug Administration(FDA-United States)
European Food Safety Authority(EFSA-European Union)
Ministry for Primary Industries(MPI-New Zealand)
Data sheet on foodborne biological hazards(anses-France)
U.S. DEPARTMENT OF AGRICULTURE(USDA-United States)
Centers for Disease Control and Prevention(CDC-United States)
European Centre for Disease Prevention and Control(ECDC-European Union)
National Center for Biotechnology Information(NCBI-U.S. National Library of Medicine)
The International Commission on Microbiological Specifications for Foods (ICMSF-the Commission)
Public Health England(PHE-England)
Lemgo D- and z-value Database for Food(OWL University of Applied Sciences and Arts)
Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food:Draft Guidance for Industry(FDA.2016)
European Food Safety Authority(EFSA Search.Yersinia enterocolitica)
Scientific Opinion on the public health risks related to the maintenance of the cold chain during storage and transport of meat. Part 1 (meat of domestic ungulates)(EFSA Journal 2014;12(3):3601)
Yersinia enterocolitica - Microbial pathogen data sheet(NZFS-ESR.2010)
Risk Profile: Yersinia Enterocolitica in pork(NZFS-ESR.2004)
Data sheet on foodborne biological hazards :Yersinia enterocolitica(anses.2012)
USDA Search.Yersinia enterocolitica(USDA)
Centers for Disease Control and Prevention.Yersinia enterocolitica (Yersiniosis)(CDC-United States)
The Bacterial Diversity Metadatabase:Yersinia enterocolitica 33114(BacDive)