食品衛生法の中で、「63℃30分と同等以上」や「75℃1分と同等以上」という加熱条件がよくみられます。
しかし、この「同等以上」を満たすための温度と時間はどの様に算出すればよいのかお悩みの方もいるのではないでしょうか?
今回は、食品衛生法にある「中心部の温度を63℃で30分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法」について、算出の方法を説明いたします。(Z=8.0における75℃1分も同じ加熱条件であることが分かります)
また、実際に、55℃~95℃における加熱時間をZ値5.0~10.0別にエクセルで演算・作表してみましたので参考にご活用ください。
目 次
D値、Z値について
同等以上の加熱条件を算出するにあたり、Z値は必須となります。
また、D値についても理解しておくことが必要です。
しかし、ここで詳しく説明すると混乱してしまうかも知れませんので、Z値、D値および殺菌レベルについては別記事にて説明します。
ここでは、簡単に以下のように覚えてください。
D値とは
D値(decimal reduction time)はある加熱温度において生菌数を1/10にする時間です。
殺菌レベルとは
菌数を完全にゼロとすることは現実的ではありませんし、食品がどれだけの菌数で汚染されてるかにより生き残る菌数は変わります。
殺菌レベルとは、初期の生菌数をどれだけ滅菌するかを表し、国際的に採用されている無菌性保証レベル(sterility assurance level, SAL)は6D reduction(SAL≦\( 10^{-6}\))で、生存確率が1/1,000,000となります。また、ボツリヌス菌の芽胞のうち、第1群菌の殺菌は12D reduction(1兆分の1)とされています。
Z値とは
Z値は加熱時間D値を1/10にするために必要な温度です。
通常、一般細菌でZ=5~8℃、耐熱性の芽胞細菌でZ=7~11℃になります。
加熱時間と生残菌数の関係
ある微生物細胞を一定温度 \(T\)\({\left( ^\circ C\right)}\) で加熱すると、その生残菌数の対数 \(log{\left( N/N_{0}\right)}\) と処理時間 \(t\)\({\left( min\right)}\) は一般には直線的な関係となります。
この直線部分において、生残菌数を1/10にするための時間がD値 \({\left( min\right)}\) になります。
したがって、ある温度でのD値がわかれば \(t\)\({\left( min\right)}\) 後の生残率 \(N/N_{0}\) は、以下の式で求めることができます。
\(N/N_{0}=10^{-t/D}\) ※\(N_{0}\)は初期菌数、\(N\)は時間\(t\)における菌数とします【検証】
63℃30分で特定の生菌がどれだけ滅菌されるのかがわかります。
例えば、リステリアのD値が\(D_{63} = 3 min\)とした場合、
生残率(\(N/N_{0})=10^{-30/3}=10^{-10}\) となり
リステリア菌に対しては、10D reduction(生存率:1/10,000,000,000=100億分の1)、99.99999999%死滅させると予測できます。
63℃30分と同等の加熱条件を算出する方法
同等の加熱条件を導き出すには、ある温度 \(T\)\({\left( ^\circ C\right)}\) に対するD値の対数値がかかわります。
ここで、あるD値が1/10または10倍となる温度変化量Z値\({\left( ^\circ C\right)}\) と対照となる温度 \(T_{r}\)\({\left( ^\circ C\right)}\) でのD値 \(D{r}\)\({\left( min\right)}\) がわかれば、ある温度 \(T\)\({\left( ^\circ C\right)}\) におけるD値は、以下の式で求めることができます。
\(D=D_{r}10^{\left( Tr-T\right)/Z}\) 【検証】ある温度における、63℃30分と同等の加熱条件を算出してみます。
\(T_{r}\) は \(63\)\({\left( ^\circ C\right)}\)、\(D{r}\) は \(30\)\({\left( min\right)}\) です。
ここで、\(70\)\({\left( ^\circ C\right)}\) で加熱する場合に同等となるために必要な加熱時間D値を求めてみます。(Z値は8.0とします)
\(D=30×10^{\left( 63-70\right)/8}\) となり
63℃30分と同等の加熱条件は、70℃の場合、約4分間加熱すると同条件ということになります。
※同様に75℃1分も同等の加熱条件であることがわかります(Z=8.0の場合)
63℃30分と同等の加熱条件一覧表
上記の式により、55℃~95℃において、「63℃30分と同等の加熱条件」とするための加熱時間(D値)をZ値別にエクセルで演算させた結果が次の表になります。
実務レベルで加熱条件をどの様に導き出すか
一覧表の演算結果を見てお分かりの通り、加熱時間はZ値により大きく変化します。
次のグラフは加熱条件一覧表の一部をグラフ化したものです。
Z値は菌種により異なり、一般細菌で5.0~8.0℃となりますが、実務レベルでこれから加熱殺菌しようとする食品がどの菌種に汚染されているか全て判明しているなんてことはまずないでしょう。
様々な一般細菌全てを対象として殺菌するためにはZ値に幅を持たせる必要があります。
特性を見ると、低いZ値の場合は加熱温度が低いほど加熱時間を長く要し、逆に高いZ値の場合は加熱温度が高くなるほど加熱時間を長く要することがわかります。
したがって、加熱温度が63℃より低い場合はZ=5.0とし、高い場合はZ=8.0とすることにより、ほとんどのケースに対応できます。
※安全のために、Z=5.0~9.5程度を見ておくと良いと思います(表の右列 Z=5.0,9.5 です)。
まとめ
63℃30分と同等の加熱条件について説明させていただきました。
今回作成した「63℃30分と同等の加熱条件一覧表」からほぼ全ての答えが導きだされると思いますのでご活用ください。
また、0.1℃単位でコントロールしたい場合は、ご紹介した計算式で算出してみてください。
なお、本文中にでてくる温度については食品の中心温度となりますので注意してください。
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